
2巻シーと呪われたヘビ
- 第1章 あみものがすきなひつじ
- 第2章 おいかけっこ
- 第3章 みずうみでのであい
- 第4章 たすけてくれたおれい
- 第5章 ひみつのともだち
- 第6章 のろわれたへび
- 第7章 たくさんのけいと
- 第8章 はじめてのプレゼント
- 第9章 ともだちだもの
- 第10章 いっしょにそとへ
第1章 あみものがすきなひつじ
はっぱのみどりやくさのみどりできかざったやまやまのあいだに、たくさんのみずうみがガラスのようにかがやく、うつくしいくにがありました。
とあるみずうみのほとりにひろがるまち、そのなかでいろとりどりのはるのはながゆれるいえのなかをのぞいてみると、ひつじのおんなのこがあみものをしていました。
「ご、ろく、なな、……」
あみめをしんけんにかぞえている、このおんなのこのなまえはシーといいました。シーはあみものとおかしづくりがだいすきです。きょうも、がっこうからかえって、ずっとあみものをしていました。
「あっ、けいとがおわってしまう。」
と、シーはけいとがなくなりそうなことにきづきました。シーはじぶんのへやのまどから、にわのみずやりをしているおかあさんへこえをかけました。
「おかあさん、けいとがなくなりそう。いえにまだあるかしら。」
「ううん、もうないわ。おみせにかいにいかなくちゃ。」
シーは、おかあさんと、それからにわのようすをみました。おかあさんのじょうろでみずをもらえたおはなは、はんぶんくらい。のこりのはんぶんは、いまかいまかとみずをまっているようにみえました。
「わたし、けいとをかいにいってくる。」
と、シーはいって、まどからかおをひっこめて、おさいふをカバンにいれました。じぶんのへやをでて、げんかんのドアをくぐると、
「いってらっしゃい。」という、おかあさんのこえをせなかに、シーはおみせへとかけだしていきました。
第2章 おいかけっこ
おみせでかったけいとをカバンにいれて、シーはにっこりとわらいました。
「これで、あみもののつづきができるわ。」
と、ほくほくしながらおみせをでると、
「あっ、シーだ。」
と、ききなれたこえがして、シーはびくりとみをすくませました。
「やい、シー。なにをかったのか、みせろよ。」
シーがこえのしたほうをみると、がっこうでいちばんからだとこえのおおきなネコがちかづいてくるところでした。
シーは、ネコのらんぼうなものいいをあまりすきではないなとおもいながら、「け、けいとよ。」と、ちょっぴりふるえるこえでこたえました。
こたえなかったり、もんくをいったりしたクラスメイトが、ネコにこづかれているところをみたことがあったからでした。シーのへんじに、ネコはおおきなくちをぱかっとあけて、わらいました。
「シー、ひつじのおまえが、わざわざけいとをかうのかよ。おまえのしろいけをひっこぬいて、けいとをつくるてつだいをしてやろうか。」
と、ネコがシーのあたまにおおきなてをのばしたので、
「やめて!」
と、シーはあわててにげだしました。
第3章 みずうみでのであい
「はぁ、はぁ、はぁ。」
シーはネコからにげるうちに、まちをはなれて、みずうみのそばにたたずむカエデのきまでやってきました。
シーはけしてあしのはやいほうではありませんでしたが、ネコはあそんでいるのでしょう、いきもきらさずにシーのあとをついてきていました。
「もう、だめ。」
と、シーはカエデのきのねもとでへたりこみました。ネコはにんまりとわらいました。
「なんだ、シー、もうにげないのか。にげないと、けいとのざいりょうをむしりとるぞ。」
と、ネコのてがシーにとどくかとどかないかというとき、ばしゃん、とみずうみのほうからおおきなみずおとがたちました。
シーはみずうみにせなかをむけていたので、まずめのまえがたてもののかげにはいったようにくらくなり、それから、
「あ、あ、あ。」
と、ネコのひきつったかおがみえました。
シーがおもいからだをようよううごかして、カエデのきのむこうをみると、そこにはおおきなへびがくびをもたげていました。
ふかいあいいろの、サファイヤのようなうろこに、ゆきいろのはねをはやしたへびが、あおぞらをきりとったようなめで、ふたりをじっとみていました。
へびがしっぽをもちあげて、しゅうしゅうとおとをたてると、
「うわあああああ!ばけものだああ!」
と、ネコははじかれたようにまちへとにげだしていきました。
のこされたシーは、まだうごけそうにありません。
(わたし、たべられちゃうのかしら。)
と、シーがぼんやりとへびをみていると、へびもちらりとシーをみました。しかし、いっこうにへびはシーにちかづきません。
へびはシーとしばらくみつめあったあと、きびすをかえしてみずうみのなかへはいっていきました。へびのおよいだあとがみえなくなるころには、シーのいきはすっかりおちついていました。
ネコのすがたもみえませんでしたから、シーはあるいていえまでかえることにしました。
第4章 たすけてくれたおれい
シーがへびとであってからすうじつたったころのまちでは、へびのまものがみずうみにすみついたといううわさがすっかりひろまっていました。
どうやら、ネコがいつもよりさらにおおきなこえでさけびながら、まちじゅうをはしりまわったのがきっかけで、そこからさらに、みつかったらたべられるとか、みずうみにしずめられるといったおひれもついているようでした。
がっこうでは、やすみじかんのたびに、ネコがおおきなこえでいかにまものがおそろしかったかをはなしています。
ネコのしせんがちらちらとじぶんにむくのをかんじながら、
(へんなの。ネコくんもわたしも、なんにもされていないのに。)
と、シーはおもいました。
ネコにけをむしられるちょくぜんに、へびはすがたをあらわして、そのままかえっていった。できごとをことばにしてみると、シーは、まるでへびがじぶんをたすけてくれたようなきがしました。
(ううん。まるで、じゃない。きっとそうだったのよ。)
と、シーはおもいました。
そして、
(たすけてもらったおれいをしたいな。へびさん、なにならよろこんでくれるかしら。)
と、おもいました。へびのすきなものをおれいに、とかんがえても、シーにはけんとうもつきません。
そこで、シーは、おやつどきにおとなのおかあさんにたずねてみることにしました。
「ねぇ、おかあさん。あるひとにおれいをしたいのだけど、そのひとがなにならよろこんでくれるかわからないの。どうしたらいいかしら。」
おかあさんは、ふむ、とあごにひづめをそえて、かんがえこみました。
「そうね、おかあさんもわからない……。でも、おれいって、いちどきりじゃなくてもいいとおもうの。まずは、シーがもらってうれしいとおもうものをわたしてみたら、どうかしら。」
わたしのすきなもの、とシーはつぶやいて、おやつにだされたおかあさんのてづくりクッキーをみました。
「ありがとう、おかあさん。わたし、おかあさんのつくってくれたおかしをたべると、とってもしあわせなきもちになるの。だから、わたし、てづくりのおかしをおれいにわたすことにする。」
と、シーがいうと、おかあさんはうれしそうにわらいました。
「そう。じゃあ、いつものふたりぶんより、たくさんつくらないとね。」
つぎのひ、シーはてづくりのクッキーをリボンのついたふくろにいれて、みずうみへとこっそりでかけていきました。
第5章 ひみつのともだち
シーはみずうみへやってきましたが、あたりにへびのすがたはみえませんでした。みずうみのまわりをぐるりとまわっても、へびはみつかりませんでした。
「どうしよう。へびさんにあえないと、おれいがわたせないわ。」
と、シーがとぼとぼとあるいていると、カエデのきまでやってきました。シーがへびとであったばしょです。
「ねぇ、カエデさん。おれいのクッキーをあなたにあずけたら、へびさんがやってきてうけとってくれるかしら。」
と、シーがカエデのきにはなしかけると、ばしゃん、とあのときのようなみずおとがしました。
シーがふりかえると、そこにはサファイヤいろのへびが、しずくのアクセサリーをまとわせながら、みずうみからあがってくるところでした。
「へびさん、こんにちは。」
と、シーがあいさつすると、へびは、くっとくびをすこしうしろにひいて、
「あなた、なんでここにきたの。」
と、といかけてきました。シーがおどろいて、
「まぁ! あなた、おはなしができるの?」
というと、
「だから、あなた、なんでここにきたの。」
と、へびはもういちどおなじしつもんをなげかけました。
「わたし、あなたにたすけてもらったおれいをしたくてきたの。」
シーがそういって、はい、とカバンからリボンのついたふくろをとりだすと、へびはぽかんとくちをあけました。シーはそんなへびのようすをみて、はたとひらめきました。
「あっ、あなた、てがないから、このままだとふくろがあけられないのね。まっていて、いま、おかしをあげるから。」
シーはいそいそとリボンをといて、クッキーをいちまいとりだし、へびのまっかなくちのなかへおきました。シーのうでがぬけたあと、へびはくちをとじて、こくりとクッキーをのみこみました。
「ちがうけど、まあ、いいわ。あなた、かわったこね。」
と、へびはいいました。
「そうかしら。『かわってる』なんて、へびさんにいわれたのがはじめてよ。」
と、シーがくびをかしげると、またへびはだまりこんでしまいました。へびとおしゃべりができるなんておもっていなかったシーは、だんだんうれしくなってきました。
「ねぇ、へびさん。わたし、シーっていうの。あなたのおなまえもおしえてくださいな。」
へびは、すこしまをおいたあと、
「わたしのなまえは、レクトよ。」
と、こたえました。おしゃべりだけじゃなくて、なまえもおしえてもらえた! シーがよびかけようとしたとき、まちのほうからゆうがたをしらせるかねのねがきこえました。きづけばゆうぐれどきで、シーもレクトもオレンジいろのひかりにつつまれていました。
「ねぇ、レクト。わたし、あなたとたくさんおしゃべりしたいのだけど、きょうはもうかえらないといけないの。だから、また、あいにきてもいいかしら。」
と、シーがもじもじしながらたずねると、レクトは、
「すきにすれば。」
とぽつんとこたえました。ネコににたぶっきらぼうなものいいでしたが、あいてにぶつけるようならんぼうさはなく、あいてにとどくてまえですとんとおちていくような、そんなこえでした。
「レクト。わたし、おかしをもって、またくるわ。そしたら、いっぱいおしゃべりしましょう。」
と、シーはレクトのめをのぞきこみながらやくそくをして、いえへとはしっていきました。
第6章 のろわれたへび
それから、シーはみずうみにかようようになりました。おかあさんにおしえてもらいながらつくった、いろいろなおかしをおみやげにして。おかあさんも、シーに、いっしょにあそぶともだちができたことをよろこんでいました。
そうして、はるがおわり、なつのさかりがすぎるころには、シーとレクトはならんでこかげでくつろぐくらいなかよくなっていました。シーは、いままであついなつがにがてでしたが、レクトのひんやりとしたうろこにくっつけるので、ちょっぴりなつがすきになれました。
「シー、これくらいのあつさでへばっているの。わたしのくには、もっとあつかったわよ。」
と、レクトがこえをかけると、シーはもぞもぞとあたまをうごかしました。
「レクトのいたくには、どんなくにだったの?」
いままで、レクトがじぶんのはなしをしたことがなかったので、シーはきょうみしんしんでした。
「こことはまるきりちがう、さばくのくによ。きいろいさばくのなかにきゅうでんがあって、そのまわりに、よりあつまるようにたてものがならんでいる。がいへきのそとは、ずぅっとさばく。」
シーのあたまに、としょかんでみたせかいちずがうかびました。シーのくにから、ずっとずっとしたのほうに、さばくがえがいてあったはずです。せんせいは、『みなみ』といっていました。
「いちめんのさばくだったら、みずうみもないでしょう。レクトは、どうやってくらしていたの。」
と、シーはたずねました。
レクトはみずあびがすきだということを、なんかいもあううちにシーはしっていました。
「わたし、おひめさまだったもの。みずにふじゆうしたことはなかったわ。」と、レクトのこたえに、シーはおどろきました。
きゅうでんのなか、レクトがティアラとドレスをみにつけているえをそうぞうしたからです。レクトは、ちろり、とあかいしたをだしました。
「むかしは、そうね、あなたよりちょっとおおきいくらいのおんなのこだった。いろいろあって、のろいにかかって、くにからおいだされて、いまはこのすがたってわけ。」
「そうなの。」と、
シーがうなずくと、レクトのめつきがすこしするどくなったようでした。
「あなた、ちょっとはうたがわないの。ひとがまものになるなんて、ふつう、しんじられないでしょう。」
「えっ、レクトがそういったんだもの、しんじていたわ。ちがうの?」
と、シーがいうと、レクトはすこしうごきをとめたあと、ぱたりとあたまをふせました。
「ちがわないわ。でも、くにのみんなは、わたしのほんとうのなまえをいっても、しんじてくれなかったから。」
「ほんとうのなまえ? レクトではないの?」
レクトは、そらいろのめをふせました。
「ええ。そのなまえをよばれると、むかしのことをおもいだしてしまうから、だれにもおしえないの。」
シーは、レクトのほんとうのなまえがきになりましたが、たずねることはできませんでした。なんだか、レクトのこころのやわらかいところにふれていて、たずねたらひっかききずをつくってしまうきがしたからです。
ふたりのちんもくをふきながすように、こかげをさぁっとすずしいかぜがとおっていきました。
「あついひがもうすこしつづくかとおもったけど、そろそろあきもちかいわね。」
レクトはけだるげにつぶやいて、とぐろをまきなおしました。それが、さむさにちぢこめるしぐさだとわかったシーは、くすりとわらいました。
「ねぇ、レクト。これからさむくなるから、ショールをあんであげる。おひめさまのドレスよりおしゃれじゃないかもしれないけれど、みにつけてくれるかしら。」
レクトは、シーのほうへちらりとめをやりました。
「わたしがみにつけるんだもの、どんなドレスよりおしゃれにしてよね。」
シーはわらってうなずきました。
「じゃあ、さっそくけいとをかいにいくわ。きっと、いえにあるだけじゃたりないから。」
そうして、シーはおみせにむかっていきました。
第7章 たくさんのけいと
レクトとやくそくしたひから、シーはへやにこもってショールをあみはじめました。
「レクトはおおきいから、ショールもうんとおおきくなくちゃ。」
ふつか、みっかとあみつづけていると、たちまちけいとがなくなってしまいました。
「どうしよう。もう、けいとをかうおこづかいがないわ。」
どこかにけいとがありやしないかとシーがへやのなかをみまわすと、かがみにうつった、じぶんのもこもこのけなみがめにはいりました。
「そうだ。わたしのけを、けいとにしてもらおう。」
シーは、いとぐるまをもっている、おばあさんのいえへいくことにしました。
第8章 はじめてのプレゼント
「おや、まあ、シーじゃないか。よくきたね。」
シーがおばあさんのいえにいくと、おばあさんはあたたかくむかえいれてくれました。
シーは、おばあさんに、じぶんのけでけいとをつくってほしいとたのみました。おばあさんは、おどろいたあと、ひっしなようすのシーをみて、ショールにたりないぶんだけシーのけをきりました。
「いとをつむぐには、すこしじかんがかかるから、まっていなさい。」
と、おばあさんがいいました。
「よかった。これで、レクトにショールをわたせる。」
と、シーがあんしんしてショールをだきしめたとき、まどのそとから、
「みやこのへいたいが、へびのまものたいじにきたぞ!」
というおおきなこえがきこえました。シーがあわてていえのそとにでると、ものものしいよろいをきたおとなたちが、まちのなかやみずうみへのみちへとちらばっていくようすがみえました。
「たいへんだわ! レクトがたいじされてしまう!」
と、シーはショールをかかえて、レクトのいるみずうみへはしりだしました。
第9章 ともだちだもの
シーがみずうみにたどりつくと、レクトがゆっくりとでむかえました。
「ひさしぶり。もう、すっかりひえてきたわね。」
どうやら、へびのレクトはめっぽうさむさによわいようでした。
「レクト、たいへんなの。みやこからへいたいがきたの。あなたをたいじするために!」
と、シーがいうと、レクトはうつむいて、
「そうね。のろわれたまものだもの、たいじされてもしかたないわ。」
といいました。そのことばに、シーは、いままでにないくらい、あたまがかぁっとなりました。
「いやよ! ともだちだもの、あなたをたいじなんかさせない! いっしょににげましょう!」と、あみかけのショールをレクトにまいて、みずうみのほとりからつれだしました。
第10章 いっしょにそとへ
シーは、レクトといっしょにおばあさんのいえにもどってきました。おばあさんがめをまるくしながらとおしてくれただんろのそばで、シーとレクトがうずくまっていると、いえのそとがさわがしくなってきました。
「おぉい、このいえに、へびのまものがにげこんだぞ!」
「おばあさんと、おんなのこがなかにいるはずだ! はやくたすけなければ!」
がちゃがちゃときんぞくのなるおとは、へいたいのぶきやよろいがうちあうおとでしょうか。シーがレクトにそっとみをよせると、レクトはぽろぽろとなみだをこぼしていました。
「シー、わたし、ほんとうはこわい。」
と、レクトがつぶやいたとき、シーのむねにぼうっとひがともりました。シーはたちあがって、
「わたし、そとにいって、みんなに、シーはわるいまものじゃないってはなしてくるわ。こんどは、わたしがあなたをたすけてあげる。」
と、ショールのうえからレクトをだきしめました。
すると、レクトのからだから、ぱきりとがらすがわれるようなおとがして、そのなかからうつくしいへびのおひめさまがあらわれました。
「レクト、のろいがとけたのね! よかった。」
と、シーがいうと、
「シー、のろいをといてくれてありがとう。わたしのほんとうのなまえは、セーレというの。」と、へびのおひめさまがこたえました。
シーはにっこりわらって、
「セーレ。ねえ、いっしょにそとへいきましょう。みんなにすがたをみせて、そのあと、わたしのすきなおみせや、うちのじまんのにわ、あなたにみてほしいものがいっぱいあるの!」
というと、セーレのてをとって、いっしょにいえのそとへでていきました。