1巻スターの冒険

  1. 第一章 深い森の中の小さな村
  2. 第二章 うさぎのいえ
  3. 第三章 おとどけもの
  4. 第四章 えいゆうのほん
  5. 第五章 エンドゥのぼうけん 
  6. 第六章 もりのむこうへ
  7. 第七章 とどけもののかえりみち
  8. 第八章 みつからないほん
  9. 第九章 りゅうのねぐら
  10. 最終章 きみのためにできること

第一章 深い森の中の小さな村

みどり、きみどり、ふかみどり。
色々な緑を集めたような、深い森の中に、
動物たちが暮らす、小さな村がありました。

村の中でひときわ小さい家に住む、
ネズミのスターがこのお話の主役です。

 スターは、「配達員」と言って、忙しかったり、
足を悪くしたりで遠くに行けない人たちの代わりに、
手紙や贈り物を届ける仕事をしています。

 スターの一日は、家の壁に貼られた
カレンダーを見る事から始まります。

「今日は、ウサギさんから人参のお届けを頼まれているな」
 スターは出掛ける支度をして、ウサギの家に出かけていきました。

第二章 うさぎのいえ

 スターは、ウサギの家の前へやってきました。

「おはよう。届けものを、受け取りに来たよ!」
と、スターが大きな声で呼んでも、ウサギは家から出てきません。

「あれ、おかしいな。どうしたんだろう?」
 スターが玄関のドアに近づくと、
「ただ今、畑に行っています。」
と書かれた板が掛かっていることに気が付きました。

「畑に行って、呼んでこよう。」
 スターは、隣の畑にいくことにしました。

第三章 おとどけもの

「やあ、ウサギさん、居るかい? 届けものを、受け取りに来たよ!」
と、隣の畑の前でスターが声を上げました。

すると、うさぎが、
「やあ、悪かったね。つい、収穫に夢中になってしまった。」
と、謝りながら出てきました。

 スターは、ウサギと一緒にうさぎのいえに戻りました。

「庭の畑で取った人参が、余ってしまったんだ。
だから、ウマさんにおすそ分けしてあげようと思ったんだけど。
中々、家から離れられなくて。」
と、ウサギは言いました。

 ウマのいえは、ウサギの家から見ると、
ちょうど村の反対側にあります。

同じ村とはいえ、少しばかり遠いところです。

 二人は、話をしながら、家の裏手にある
畑の隅までやってきました。

 畑の隅にはかごが置いてあり、
中には鮮やかなオレンジ色の人参が詰まっていました。

「よいしょっと。」
と、ウサギはかごの中から人参を取り出して、
手近な袋に入れました。

「はい、おねがいします。」
と、ウサギはスターに人参の入った袋を渡しました。

「ウサギさんの人参、確かにお預かりしました。」
 スターは、受け取った袋を、宝物をしまうように、
丁寧にカバンにしまいました。

 預かり物は、宝物のように扱う事。
スターが配達員の仕事をするときの心構えです。

「それでは、ウマさんにお届けしてきます。」
と、スターはうさぎにおじぎをして、
村の反対側にある、ウマの家に駆け出していきました。

第四章 えいゆうのほん

 スターがウマに人参が入った袋を渡すと、
ウマは目を輝かせて喜びました。

「ああ、なんておいしそうなニンジンだろう! 
スター、届けてくれてありがとう。
ウサギさんにもお礼を伝えておくれ。」
と、ウマが嬉しそうに言うので、スターも一緒に嬉しくなりました。

「うん、わかったよ。これからウサギさんの家に戻るから、
お礼を伝えておくね。」
と、スターはこたえました。

 スターは、ウマに見送られながら、ウサギの家に戻りました。

「やあ、ウサギさん。ウマさんに人参を届けて来たよ!」
と、スターが声を上げると、ウサギが家の中から出てきました。

「ありがとう、助かったよ。おかげで家の大掃除が出来た。」
「どういたしまして。それじゃあ、僕は家に帰るよ。」
と、スターが家に帰ろうとしたとき、
「スター、待ってくれないか。」
と、ウサギが声を掛けました。

「どうしたんだい? もしかして、まだ、届けものがあったのかい?」
と、スターが尋ねると、ウサギは首を横に振りました。

「いやいや。家の掃除をしていたら、
昔、スターくらいの年の頃に、よく読んだ本が出て来てね。
スターにあげようとおもったのさ。」
と、ウサギはスターに一冊の本を渡しました。

表紙には「エンドゥの冒険」という文字と、
すらりとした竜の青年の絵が描いてありました。

「ウサギさん、エンドゥって誰だい。」
と、スターは尋ねました。

「なんでも、昔々、この国に居た英雄だそうだよ。
この本は、エンドゥの活躍した話を集めた本なんだ。」
と、ウサギが答えました。

「ふうん……。うさぎさん、ありがとう。
早速、家に帰って読んでみるよ。」
と、スターはウサギにお礼を言って、家に帰っていきました。

第五章 エンドゥのぼうけん

 スターは家に帰ると、ベッドの上にカバンの中身を広げ、
本を取り出しました。

時計を見ると、3時を少し回ったところでした。

「夕ご飯の支度まで時間があるから、ちょっとだけ読んでみよう」
と、スターは呟いて、ベッドに寝転がり、本を読み始めました。

*****
 青かった空が夕暮れに染まり、
紺色をした夜空に変わるころには、
スターはすっかり本に夢中になっていました。

 その本の中には、スターが今まで見たことも
想像したこともないような冒険のお話が、
きらきら光る宝石のように詰まっていたからです。

「あぁ、このお話も面白かった! 次はどんなお話だろう?」
と、スターはページをめくる手が止まりません。

 今、スターが住んでいる王国と、隣の帝国との争いを、
エンドゥが収めたお話。

砂漠の国で、悪い魔法使いをやっつけたお話。

雪国の迷宮で、魔法の宝物を見つけたお話……。

王様をはじめとする人々が、困っていたり、苦しんでいたりすると、
エンドゥは、涼やかな顔をくしゃくしゃにして笑って、こういうのです。

「大丈夫。私がおりますよ。」

 その言葉の後は、
エンドゥの鮮やかな活躍がつづられていました。

悩みが亡くなった人たちが、
エンドゥにお礼を言っている姿を想像して、
スターは、
「エンドゥは、すごい。」
と、感動して息をつきました。

 配達をして、一人の人にお礼を言われるだけで、
スターの旨はぽかぽかと温かくなるのです。

たくさんの人たちからお礼を言われたら、
どれくらい胸が暖かくなるのかしら!

 気が付けば、スターは、最後のお話に手をかけていました。

「あれ、もう最後か。もっと読んでいたかったのに。」
と、スターは呟いて、最後のお話を読み始めました。

 最後のお話は、エンドゥが軍隊を率いて、
たくさんの悪者と戦うお話でした。

 エンドゥは、仲間を励ますために、
一番前で、悪者の群れと戦い続けます。

しかし、悪者の群れは減ることなく、仲間がどんどん傷つき、
倒れていくのを見かねたエンドゥは、
援軍が来るまで一人で食い止める事を選びました。

「大丈夫。私がおりますよ。」
と、エンドゥがいつものように笑うので、
仲間たちは、いつものように大丈夫だと信じて、
エンドゥを戦場へ送り出しました。

「エンドゥだもの、きっと大丈夫。ああ、でも、どうなってしまうんだろう。」
と、スターは小さな胸をどきどきさせながら、ページをめくりました。

「「エンドゥの仲間が援軍と一緒に線上に戻った時には、
エンドゥと悪者の姿はありませんでした。
キット、エンドゥが全ての悪者をやっつけてくれたのでしょう。
みんなが、エンドゥに感謝しました。おしまい」
……えぇっ、これで終わり?」
と、スターは飛び起きて、ページをめくり損ねていないか、
敗れていないか、本をよく見てみましたが、
本当にお話はそこで終わりのようでした。

「そんなぁ。」
と、スターは本をベッドにおいて、あおむけに寝転がりました。

「みんなを笑顔にしたエンドゥが、最後はいなくなって終わりだなんて。
なんだか、とっても悲しいなぁ・・・・・・。」
と、スターが目を閉じて、エンドゥの最後を想像していると、
段々頭がぼうっとしてきて、
あっという間に眠りに落ちていきました。

*****

 ぐっすり眠るスターの顔に、朝日が差し込みました。

「うぅ、まぶしい。」
と、スターは起き上がりました。

時計を見ると、いつも起きる時間より、
一時間ほど遅い時間でした。

「わぁ、こんな時間?!今日も配達があるのに!」
と、スターは慌てて支度をして、家を飛び出していきました。

第六章 もりのむこうへ

 スターがリスの家に走っていくと、
リスは袋を抱えて、家の外に立っていました。

「リスさん、遅れてごめんなさい。」
「おはよう、スター。珍しい事もある物だね。」
と、リスは気にした風もなく、スターに袋を渡しました。

「森の向こうにある街に、親せきが住んでいるんだ。
今年は野菜が沢山取れたから、おすそ分けしてあげたくて。」

 スターが袋の中を見ると、青々としたトウモロコシが見えました。

スターは上を向いて、太陽の位置を確かめました。

今から出発すれば、
お昼過ぎには、森の向こうの町に行けそうです。

「リスさんのトウモロコシ、確かにお預かりしました。」
と、スターは言って、受け取った袋の口を締めて、
丁寧にカバンにしまいました。

「それでは、行ってきます。」
と、スターは、リスに見送られて、村の外へ走っていきました。

第七章 とどけもののかえりみち

 スターが届けものを終えて、町を出た時には、
太陽は山の向こうに姿を隠そうとしているところでした。

涼しい風がスターの短い毛を撫でたので、
スターはぶるりとふるえました。

「早く村に戻らなくちゃ。」
と、スターが少しだけ足を速めた時、
スターの目の前に、木々の間から小鳥が飛び出してきました。

「ことりさん、どうしたの。」
と、スターがびっくりして尋ねても、
「なんてこと、なんてこと。」
と、カチカチとくちばしを鳴らしながら小鳥は呟くばかりでした。

羽で目を覆ってうずくまる小鳥に、
「ことりさん、落ち着いて。ぼくだよ、スターだよ。」
と、スターは辛抱強く声をかけ続けました。

 しばらくすると、小鳥は落ち着きました。
「ごめんなさい、スター。」
「ううん、なんてことないさ。でも、どうしたんだい?」
と、スターが尋ねると、小鳥は全身の羽毛を逆立てて言いました。
「とっても大きくて、とっても恐ろしい化け物が、
湖のそばにいたのよ!」
 スターは、生まれてこのかた、誰かがこんなにおびえるような、
恐ろしい化け物を見たことがありません。

化け物の姿を想像しようとしたとき、
『エンドゥのぼうけん』にでてきた悪者の姿がカチリとはまりました。

それから、悪者の前にさっそうと立つ、エンドゥの姿も。

 こういう時、エンドゥならどうするだろう、と少しだけ考えて、
スターは震える小鳥の肩に手を置いて笑いかけました。

「大丈夫。僕が見てくるよ。」

 スターは、湖があるほうに駆け出していきました。

*****

 茂みを揺らしたり、小枝を踏んだりして、音をたてないように、
スターは慎重に湖のほとりにやってきました。

 茂みの間からちらりと除いても、
身体を突き出してきょろきょろと辺りを見渡してみても、
恐ろしい化け物の姿は見当たりません。

「いったい、どこへいってしまったんだろう。」
と、スターがつぶやいたとき、
「ぐぉぉぉ……」
と、地面を揺らすようなうなり声が、
スターの大きくて丸い耳に届きました。

 スターは慌てて近くの茂みに身を隠し、
茂みのすき間から音のした方に目を向けて、
声の主が現れるのを待ちました。

*****

 待っていたのは、夕暮れ時の
ほんの少しの間だったかもしれません。

けれど、スターにとっては気が遠くなるほど
長い時間のように感じました。

スターは、夕暮れの赤い光の中で、
スターの家よりも大きな黒い影を見ました。

 黒い影の淵は、エメラルドのような緑色と
金貨のような黄金色をしていました。

それが、生き物のうろこと鋭い爪だと気づいて、
(竜だ)
と、スターは息をのみました。

 竜は、ゆっくりと湖の方へ進み、
木陰から出たところで、
「ぐぅぅぅ……」
と、大きな翼を広げました。

夕日に透かされた皮膜が地のように赤くて、スターはおもわず、
「ひっ」
と声を上げて、後ろに下がりました。

足が乾いた小枝を踏みつけて、パキリと音が鳴り、
スターの全身からサァッと血の気が引きました。

スターが慌てて竜の方を見ると、黄金色の瞳と、
ぱちりと目があいました。

スゥ、と竜が息を吸う音が聞こえた瞬間、
「うわぁぁぁぁぁ!」
と、スターは叫び声をあげて、一目散に逃げだしました。

第八章 みつからないほん

 スターは転がるような勢いで家のベッドに飛び込み、
毛布にくるまりました。

けれど、一向に震えは止まりません。

むしろ、黄金色の瞳を思い出して、
震えがひどくなるばかりでした。

*****

月が夜空の一番高いところで輝く頃には、
震えも収まってきました。

スターはそろりそろりとベッドから這い出して、コップに水をくみ、
グイっと飲んだ後に息を漏らしました。

「悪者におびえる、物語の中の人たちは、
こんな気持ちだったのかな……」

 物語では、エンドゥがさっそうと助けてくれました。

でも、いまは?

 スターはベッドにもぐりこんで、そっと目を閉じました。

*****

次の日の朝、
スターは、お隣さんがあいさつする声で目を覚ましました。

いつも通りの穏やかな朝なので、
昨日の出来事がなんだか夢のように感じられました。

カレンダーに目をやると、
今日の日付のところには何も書いてありませんでした。

「今日はお休みか。何をしようかな。」
と、家の中を見ると、床にひっくり返されたカバンと、
その中身が、昨日会ったことを思い出させるように散らかっていました。

「まずは、家の中を片付けなくちゃ。」
と、スターはベッドからとびおりました。

*****

使ったハンカチはきれいなハンカチと取り換えて、
他の荷物と一緒にカバンへ入れて、カバン賭けにかけて……
部屋はすっかりきれいになりました。

でも、スターは何かが足りない気がしてなりません。
「うぅん、何かが無いような……」
 部屋の中を見回して、ふと、カレンダーに目をやった時、
一昨日にうさぎからもらった「エンドゥの冒険」
のことを思い出しました。

「あぁっ! どこへやってしまったんだろう。
ベッドで読んだ後、どうしたっけ。」

 毛布の中にも、ベッドの下にも見当たりません。
昨日の朝のことを思い返してみると、
慌てて支度をする中で、ベッドの上にある物全部
カバンに押し込んだような……。
けれど、カバンの中に本が無いことは確かめたばかりです。

「もしかして、森の中に落としてきたのかしら。」

 思いついた考えを口に出すと、
もうそれしかないような気がしてきました。

エンドゥの本は大事だけれど、
森には恐ろしい竜がいるかもしれない。

スターの心の中の天秤はグラグラと揺れて、
最後に勝ったのは、エンドゥの本でした。

「昨日だって、逃げられたんだし、きっと大丈夫さ。」
と、少しだけ震える声で自分を励まして、
スターは森に出かけていきました。

第九章 りゅうのねぐら

「うぅん、いったい、ほんはどこにあるんだろうか。」
 みずうみのまわりをぐるりとまわっても、ほんはみつかりませんでした。

りゅうにみつかりやしないか、さいしょはびくびく、やがてうろうろ、
しまいにはとぼとぼとあるいているうちに、
スターはきづけばみずうみからとおくはなれたどうくつにたどりつきました。

「こんなところにどうくつがあるなんて、しらなかったなぁ。」
 どうくつは、むらとまちをむすぶみちからはずれたところにありました。

はいたついんのスターでさえしらないのですから、
ほかのどうぶつがいるはずもなく、
あたりはしんとしずまりかえっていました。

 スターがどうくつのなかをのぞきこむと、うすぐらく、
ひんやりとしたくうきがひげをなでてきました。

どうくつのおくには、かすかなあおいひかりがみえました。

どうやら、どうくつのおくにころがっているいしが
ひかりをだしているようでした。

あおいひかりは、じめんにちかいところが、
ふしぜんにながいかたちでかけていて、
きそくただしくふくらんだりちぢんだりしていました。

まるでへびみたいだと、スターはおもったあと、
すぐにかんちがいにきづきました。

(あれは、りゅうのしっぽだ。)

おもわずこえをだしそうになったくちをりょうてでおさえて、
スターはちゅういぶかくかんさつしていきました。

(ふくらんだりちぢんだりしているのは、いきをしているだけだ。
ぜんぜんうごかない。もしかして、ねているのかもしれない。)

と、スターがかんがえたとき、りゅうのしっぽがゆらりともちあがり、
ぱたんとじめんをうったので、
しんぞうがくちからとびだすのではないかとおもうくらいおどろきました。

 さらに、かべにたてかけてあったほんがぱたりとたおれるのがみえて、
スターはもういちどおどろきました。

(あのほん、『エンドゥのぼうけん』だ!)

 スターはすぐにでもとびだしていきたいきもちにかられましたが、
ほんがあるのはりゅうのすぐそばです。

もし、りゅうがねむっていなかったら? 

もし、とちゅうでおきてしまったら? 

おおきくてするどいつめをおもいだして、スターはぶるりとふるえました。

(いちど、いえにもどってさくせんをかんがえよう。)

 スターはそろりそろりとどうくつをあとにしました。

*****

「まさか、ほんがりゅうのどうくつにあるなんて。」

 いえにかえっていすにすわると、スターはためいきをつきました。

いちにちあるきどおしで、あしはくたくた、のどはからからでした。

「みずをのもうっと。」
と、スターはみずさしをもちあげましたが、なかみはからっぽでした。

「やぁ、からっぽだ。そとまでみずをくみにいかないと。」
と、いすからたちあがったとき、スターはふとおもいつきました。

「りゅうだっていきものだもの、みずをのむはずだ。
みずうみにきていたのが、みずをのんだり、くんだりするためなら、
いちにちのどこかでどうくつをあけるときがあるかもしれない。」

 スターは、はいたついんのしごとのあいまをぬって、
みずうみをみはることにしました。

*****

 スターがみずうみをみはるようになって、
なんにちかたったあとのひがかたむいたじかん、
ついにりゅうがすがたをあらわしました。

さいしょにであったときは、スターはすぐににげだしてしまいましたが、
いまはいくぶんおちついていました。

 りゅうはスターのほうにはめをくれず、みなもをながめたり、
みなもにあたまをちかづけてみずをのんだりしているようでした。

(いまのうちに、あのどうくつにしのびこんで、ほんをとりかえすんだ!)

 スターは、できるだけしずかに、できるだけいそいで、
どうくつへとはしりだしました。

最終章 きみのためにできること

 りゅうがいないどうくつのなかで、
スターはさがしていたほんをてにとりました。

「やった! エンドゥ、みつけたよ!」
と、スターがぎゅぅっとむねにほんをだきかかえて、
どうくつのでぐちをふりかえると、
そこにはおおきなりゅうがたちふさがっていました。

スターがいきをのみ、ひめいをあげるちょくぜん、
「やぁ、おどろかせてすまない。」
と、めのまえのりゅうがおだやかなくちょうではなしかけてきました。

めをしろくろさせているスターを、おうごんいろのめでみつめながら、
りゅうはつづけていいました。

「こわがらせるつもりはなかったのだけれど、このみためではね。
わたしのなまえはエンドゥという。」

「えっ! エンドゥだって?」
と、スターはほんのひょうしにかかれたせいねんのえと、
しょうめんにいるりゅうをこうごにみました。

「うん。やはり、そのほんはきみのおとしものだったんだね。」
と、りゅうは、スターのふところのほんにめをやりました。

「そのほん、みずうみのそばでみつけてね。
そのままだとあめつゆにぬれてしまうから、
ひとまずどうくつまでもってかえったんだが……、
どうやってかえしたものか、こまっていたんだ。ええと……」
と、りゅうはこてりとくびをかしげました。

「ぼくのなまえはスターだよ。エ、エンドゥ。」
と、スターがふるえるこえでよびかけると、
エンドゥは、なんだい、とへんじをしました。

ずいぶんおそろしげなすがたかたちをしていても、
じぶんをみるまなざしとゆっくりとしたこえで、
じぶんのことばをまってもらっている、とスターはわかりました。

「きみ、ほんのえと、ずいぶんちがうんだね。」
と、おもったことばがころりとくちからこぼれました。

エンドゥはめをほそめましたが、それもいかくではなくて、
わらったのだということも、いまのスターにはわかりました。

「うん。じぶんのみなりもきにできないくらい、
まものとながいことたたかっていたら、
いつのまにかこのすがたになっていた。」

「じゃあ、ほんにかいてあったおはなしは、ほんとうのことかい? 
まものはどうなったの?」

 ほんにかかれていないつづきがきになって、スターがたずねると、
エンドゥはするどいつめであごをかきながらこたえました。

「まものはね、かみさまが、かなしい、くるしい、いやだ、
とおもうとうまれてくるんだ。
あのときだけではなく、いまも、まものはいるから、
みつけてまわっているんだよ。」

「そうなんだ。エンドゥ、どれくらいのあいだ、まものをさがしているの?」

「こよみをかぞえていないから、あんまりじしんはないけれど、
たぶん、にひゃっかいははるをむかえたかな。」
と、エンドゥがさらりとかえしたこたえに、
スターはとびあがるほどおどろきました。

にひゃくねんまえといったら、
スターはもちろん、スターのおとうさんも、
おじいさんもうまれていないころです。

「ねぇ、エンドゥ。きみは、そのあいだ、ずっとひとりだったのかい?」
と、スターがたずねると、すこしだけまをおいてから、
エンドゥは、うん、とうなずきました。

「このすがただと、みんなおどろいてしまうから、ふだんはかくれているんだ。
みつかってしまったときは、ひっこしをしている。」
と、いいながら、エンドゥはあしもとにころがっている
ひかるいしをつめでつつきました。

「それって、つらくないの?」
と、スターはくちにだしてからこうかいしました。

エンドゥのかおをおそるおそるみると、
なにやらかんがえているようすでした。

「スター、ちょっとついてきてくれないか。」
と、エンドゥがどうくつのでぐちのほうへあるいていくので、
スターはあとをついていきました。

どうくつのそとにでると、
さぁっとゆうぐれどきのすずしいかぜがほほをなでました。

「さきほどのしつもんのこたえだけどね、つらいこともあるよ。
でも、すまいはいつもみはらしがよいところにしておくんだ。
ほら、ここからだと、きみのすんでいるむらがよくみえる。」
と、エンドゥがゆびさしたさきをみると、あたりがくらくなっていくなかで、
ぽつりぽつりとあかりがつくのがみえました。

「つらいときには、みんなのいえのあかりをみるんだ。
そして、いえのなかでわらっているみんなをそうぞうする。
みんながわらっていられるくらしを、じぶんはいままでまもってきたんだ。
そうするとね、あしたもがんばろうとおもえてくるんだよ。」
と、エンドゥはふえていくあかりをながめながらつづけました。

じぶんがなにげなくつけているあかりを、エンドゥがみてくれている。

そうおもうと、むねにもぽっとあかりがともるようなきがしました。

「スター、よるになるとこのあたりはまっくらになる。はやくかえるといい。」
と、エンドゥはうながしました。スターがみあげると、
こんいろのそらに、いちばんぼしがまたたいていました。

「また、ここにきたらあってくれるかい。」
と、スターがたずねると、エンドゥはゆるくくびをよこにふりました。

「スター、きみいがいのひとにも、みつかってしまったからね。
みんながあんしんしてねむれるように、
あした、べつのねぐらをさがすことにするよ。」

 スターは、エンドゥになにかをしてあげたくてたまらなくなりました。

いまのじぶんでも、できることはなんだろう。

スターのあたまはいままでにないくらいはたらきました。

「ねぇ、エンドゥ。ぼく、いえにかえったら、
きみのことをおもってあかりをつけるよ。
ぼくたちをまもってくれているきみに、ありがとうっていう。
すこししたらぼくもたびにでて、
いくさきで、きみのためにあかりをつける。
きみがみるあかりのなかに、
ひとつでも、きみのためのものがあるっておもったら、
ちょっとはよろこんでくれるかい。」
と、スターがいうと、エンドゥはくしゃくしゃにかおをゆがめました。

ほんのえとはぜんぜんちがっていたし、
いぜんのスターであれば
それはおそろしいぎょうそうにみえたでしょうけれど、
それがかれのえがおだとわかっているスターは
ちっともこわくありませんでした。

「それはいい。スター、わたしのちいさなともだち。
きみがわたしのことをおもってくれるなら、
わたしはいくらだってがんばれるというものだ」

 スターは、さっそくエンドゥとのやくそくをはたすために、
いえまでのかえりみちをいそぐのでした。